コレステロールってどういう物質? 体に悪いものですか?

コレステロールはヒトだけでなくすべての動物にとって生命を維持するために欠かせない脂質のひとつです。

体を構成する約60兆個もの細胞の膜、ホルモン(男性ホルモン、女性ホルモン、副腎皮質ホルモンなど)、胆汁酸(脂肪や脂溶性ビタミンの消化吸収を助ける働きがある)、ビタミンD(カルシウムの吸収を促す働きがある)など、これらすべてはコレステロールを原料につくられています。肉や魚介類、卵、牛乳などの動物性食品のすべてにコレステロールが含まれているのはこのためです。

 

これまでにコレステロールが不足すると血管がもろくなり、脳卒中(脳出血)を引き起こすことが医学的に明らかにされています。

現に、日本人の平均寿命が世界一になった理由のひとつとして、戦後、コレステロールの摂取量が著しく増えたことで血管のしなやかさが保たれ、その結果、脳卒中(脳出血)による死亡が激減したことが知られています。

また、コレステロールが不足すると、がんなどと闘う免疫細胞リンパ球など)の働きが弱まりがんが増殖しやすくなること、ビタミンDが十分に合成されず骨粗しょう症を引き起こすことも知られています。

このように、コレステロールは体の組織を構成する成分としていろいろな形で体の機能や健康にかかわっていますが、近年、細胞の情報伝達にもかかわっていることが報告されるなど、コレステロールがこれまで以上に体内で重要な働きをしていることが明らかになってきています。

 

一方、動脈硬化症(血管がかたくなりボロボロになる病気)や脂質異常症(血中の脂質量が異常な病気。以前は高脂血症と呼ばれていた)などの生活習慣病を懸念してコレステロールの摂取を気にする人もいるようですが、健康であれば、コレステロールの多い食品をとったからといって、そのまま血中のコレステロール濃度が上がるわけではありません。

体内を循環するコレステロールのうち、食事由来のものが約2割、肝臓などで新たに合成されるものが約3割、肝臓でコレステロールを原料につくられた胆汁酸が再利用されるものが約5割だといわれています。

食事からコレステロールを多くとった場合には、一定量以上は吸収されなかったり、肝臓でのコレステロールの合成量が抑えられたりするなど、体内では血中のコレステロール濃度がほぼ一定に保たれるような仕組みになっています。

この仕組みがうまく働いていない人は血中のコレステロール濃度が高くなり、過剰なコレステロールが血管壁に沈着して動脈硬化になることが懸念されます。このような場合には、食事に含まれるコレステロール量の制限も必要になってきます。

 

コレステロールには、善玉と呼ばれるHDLコレステロールと悪玉と呼ばれるLDLコレステロールがあります。コレステロールが体に悪いというイメージがあるのは、LDLコレステロールが血液中に過剰に存在すると、これが血管壁に入り込んで酸化されて動脈硬化が起こり、さらに動脈硬化が進行すると脳卒中や心臓病を引き起こすことがあるからです。

けれども、コレステロールは、本来HDLもLDLも同じ成分なので、善玉も悪玉もないのです。

 

ただし、体内での働き方が異なるため、結果的にLDLとHDLは区別されています。

コレステロールは脂肪なので、水溶液である血液にはそのままの形で溶け込めず、全身を巡ることはできません。

このため、血液の中を移動できるリポタンパク質と呼ばれる輸送用トラックのようなものに乗って運ばれています。

LDLはコレステロールをたくさん積んだトラック、HDLは何も積んでいないトラックを想像するとわかりやすいでしょう。

LDLは全身を巡りながら、各組織に必要なコレステロールを配る役割を果たしています。

一方のHDLは空っぽのトラックのようなもので、血中にのって全身を巡りながら組織にたまっている余分なコレステロールを回収し、肝臓に持ち帰る働きをしています。血中のHDLの量が少なければ過剰のコレステロールが回収されなくなり、血管や組織にコレステロールがたまり、これが動脈硬化の引き金になります。

HDLは善玉、LDLは悪玉と呼ばれる理由はこのためです。けれども、LDLのおかげで全身の組織にコレステロールが運ばれていき、その結果ヒトが生命を維持できることを忘れてはなりません。

LDLが少なくても多くても、HDLが少なくても、ヒトは健康を保つことができないのです。